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わが国の税制のあり方

わが国の税制のあり方と税理士の社会的使命

税理士 近藤 忠憲

 

1. はじめに  わが国の平成25年度の予算の歳入総額は約92兆6000億円であり、そのうち税収入は43兆円で平成21年度より5割を切っている。このため、財政の健全化がいわれ、その税源の確保に消費税の増税が俎上にのぼり、選挙の争点になったことは記憶に新しい。消費税法案は平成25年の国会を通過したが、景気条項が入っていたため、最終決断は首相の決定にゆだねられたが、平成26年4月より8%の税率が実行されることになった。
 財政の健全化のためにいつも言われるのが政府の債務の総額である。平成25年9月末現在で債務の残高は1011兆円を超えている。国の財政が健全かどうかは、これは個人も法人も同じであるが、債務の残高だけをみては正しい財政状態を把握できない。資産の総額と債務の総額をみて、純債務を把握すべきであるが、資産の総額は積極的に公表されていない。
 租税収入の確保にかかわる立場の1人として、わが国の税制のあり方と税理士の社会的使命について論じたい。

2. わが国の税制のしくみ  わが国の税金は、国に納める税金としては所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税、酒税等がある。都道府県に納める税金は都道府県民税、事業税、不動産取得税、自動車税等である。また、市区町村に納める税金は市町村民税、固定資産税、軽自動車税がある。
 国に納める平成25年度の主要税目の収入予算は、所得税13兆8980億円、法人税8兆7140億円、消費税10兆6490億円となっている。
 所得税は毎年1月1日より、12月31日までの1年間に得た所得にかかる税金であり、10種類に区別して計算する。10種類とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得となっている。それぞれの総収入金額から、必要経費を差し引いた所得に法律で定められた各種控除を差し引き、課税所得を算出して税率をかけて税金を算出する。税率は、課税所得が高いほど税率が高い累進税率となっており、税率は5%~40%となっている。
 法人税は会社の確定決算の当期利益を基にして、課税所得を算出する。租税特別措置法の適用があるかどうか、相当な専門知識がないと課税所得の算出は出来ない。また、税法は毎年改正されるため、常に学習しておくことが必要となる。
 相続税は、死亡した人の財産を相続したときや遺言によって財産を取得したときに納める税金である。現在基礎控除は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数であり、配偶者、子供3人の場合は9,000万円が基礎控除となり、遺産の総額が基礎控除を超える場合に相続税の申告が必要となる。現在死亡した被相続人のうち、申告の義務のある者は、100人のうち4人と言われ、基礎控除が大きすぎるとされて、平成27年1月より基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数と引下げが決まっている。
 消費税は、商品等の販売やサービスの提供等の取引にかかる税金で、消費者は商品等の価格に含まれた消費税を負担し、納税義務者が申告し、納付する。課税される取引は国内における取引、事業者が事業として行う取引、対価を得て行う取引、資産の譲渡、資産の貸付及びサービスの提供、また外国から商品を輸入する場合も輸入のときに課税される。非課税取引には土地の譲渡及び貸付、社会保険医療、株式、社債の譲渡、一定の学校の授業料、貸付金や預金の利子、住宅家賃等は、消費税の性格や社会政策的配慮から課税されない。
 事業者は前々年(基準期間)の売上高が1,000万円を超えた場合には、消費税を納める課税事業者となる。
 消費税の計算は売上に係る消費税から仕入、経費等に支払った消費税の差が支払うべき消費税となる。基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者はみなし仕入率による簡易課税制度を選択することもできる。

3. あるべき税制について  まず法人税率についてであるが、わが国の法人はグローバル化の中で国際的に競争にさらされており、経団連は、常にわが国の法人税率が国際的に高いものとして、税率の引き下げを主張している。現在の自民党政権でもその要求には耳を傾け、現在法人に課されている復興法人税は平成26年4月にはその廃止が決まっている。
 現在のわが国の法人税実効税率は38.01%で、アメリカ(カリフォルニア州)の40.75%は別格としても、フランス33.32%、ドイツ29.55%、イギリス24.00%、シンガポール17.00%、中国28.61%、韓国24.20%と相対的に低くなっている。わが国の法人税率は高いから国外に移転するという意見も多く聞かれるが、実質的に法人の課税所得の計算は各種の優遇税制があり、政策的に租税特別措置法により、研究開発減税、投資減税等、実行税率は国際的に高いと言えない意見もある。企業が海外移転するかどうかは、法人税の実効税率だけではなく、その国のインフラ、賃金水準、労働者の質など多くの条件を考慮して行われるものであり、法人税が高いかどうかで判断されないのが実情である。次に所得税の税率であるが、低い課税所得には低い税率で、高い課税所得には高い税率となる累進税率となっている。これは、税金の再配分の機能を持たせるには必要の措置であり、かつて所得税と地方税率の合わせて72%の税率の時期もあった。税率は次第に引き下げられ現在、国税40%地方税10%が最高税率になっている。このことがわが国において、所得格差が広がる原因の一つといわれ、平成27年には最高税率は55%とされることになった。高額所得者には更に高い税率でいいのではないかと考えている。
 また国民負担率は社会保障負担を含め、比較されるが、わが国の国民負担率は38.5%とイギリスの47.3%と、ドイツの56.5%、スウェーデンの55.8%、フランスの64.0%に比べ、低い数字となっている。
 消費税は国民全ての負担するものであるから常に選挙の争点ともなってきたし、現在でも消費税の増税が決まってからも賛否両論がある。平成26年4月が8%の増税に決まったが平成27年の10月から10%は、まだ決まっていない。財源の確保ではいつも叫ばれてきたが、消費税は所得の低い人や弱者も負担するものであるから、逆進性のある税といわれている。その逆進性の緩和のために生活必需品には低い税率にする軽減税率の採用がある。ヨーロッパでは、ほとんどの国が軽減税率がとられているが、わが国ではインボイス方式による課税計算でなく、帳簿方式のため、難しいと思っている。
 また逆進性の緩和策として、給付付き税額控除の採用も民主党政権時にいわれたが、現在は議論されていない。
 ただ単に国の財政の健全化のために、税源を消費税に求めるとしたら、その税率は20%以上必要ともいわれているが、あくまで机上の数値であり、国民の消費行動に大きな影響をもたらし、経済成長の大きな足かせになると考えている。
 財政の健全化を消費税の増税に頼るのは疑問がある。アメリカは州ごとの小売売上税はあるが消費税のような付加価値税はない。

4. 税理士会の社会的使命  税理士制度は、税務に関する専門家としての能力、識見を有する税理士が納税義務者を援助することを通じて、納税義務者が負う納税義務を適正に実現し、これによって、申告納税制度の円滑、適正な運営に資することを想定して、設けられたものである。よって税理士法第1条に税理士の使命として、税理士は税務に関する専門家として、独立した公平な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼に答え、租税に関する法令に規程された納税義務の適正を実現を図ることを使命とすると規程されている。
 わが国の税理士制度は税理士登録を行うと同時に税理士会に入会する、いわゆる強制入会制がとられており、入会しないと税理士業務ができないこととなっている。
 よって税理士の資格のないものは有償、無償を問わず、税務代理、税務書類の作成、税務相談等の税理士の業務はできないため、報酬を支払って税理士に依頼することができない小規模の納税者には無料の税務支援を行っている。特に公的年金受給者あるいは小規模事業者また、特に確定申告時期に多い給与所得者の還付申告など具体的には所轄税務署と税理士会の各支部が日程、人数等打合せ、会場は税務署外が多くなっているが、税理士会豊島支部でも毎年2月16日から3月15日まで豊島区役所の施設を借りて毎日10名~15名の人数を派遣し、納税者の税務相談にあたっている。
 この税務支援事業については税理士会の会則上、税理士は従事することが義務づけられている。

5. 税理士の社会貢献活動  税理士の社会貢献活動として会則上の義務ではないが、最近特に多くなったのが租税教育である。租税教育は、国民に信頼される民主的な租税制度の発展に資するための施策として実施され、平成16年から小、中学生から社会人まで公立学校、私立学校で実施している。東京税理士会の48あるほとんどの支部で行われ、豊島支部でも租税教育委員会を設置して、10校の小、中学校で税理士会が行う租税教育を実施している。民間の視点から租税について語ることは、有意義なことと感じている。
 成年後見制度についても税理士会は取組んでいる。成年後見人及び任意後見人の職務には、各支援者が行う事務のチェック、確認、検証等の監督義務と、各支援者に対する事務指導がある。財産管理の場合、各支援者が行う職務は本人の財産目録の作成あるいは、確認を行い、またその経過及び、経理について記録、計算し、証憑の保存を行う。また、監督人はこれらの事務に関する検証及び確認を行い、家庭裁判所に報告を行う。このような業務は日常的に税理士が行っている業務の1形態であり、税理士の職務としての専門性が発揮できるものである。1部被後見人の親族等の不正が報じられているが、後見人には高潔な倫理観が求められる。
 成年後見人は、税理士の本来の業務ではないが、これからますます進んでいく高齢化社会に向けて、取り組むことが社会から要請されており、税理士の社会的地位の向上のため、この成年後見制度には積極的に取組むべきと考えている。